「さ、今日もブワーッと行ってみようかー」


「麦茶飲む?」


「飲む。今日は『VIPER』だけど」


「うん。どんなバンド?」


「真乃緒ちゃんはANGRA知ってるっけ?」


「1枚だけ聞いたことあるよ。赤いの。お前が置いてったやつ」


「赤いのだと1stかな。『VIPER』は、もう脱退しちゃったけどANGRAでヴォーカルやってたアンドレ・マトスが在籍してたクラシカルなメロディックメタルなんだけどね」


「お前がそういうの取り上げるの、珍しいな」


「『メロディ? だったらクラシック聞けば?』なもた子としても、この『VIPER』は無視できないバンドなのだ。とりあえず、2ndの『theatre of fate』から話そうか」


「うー・・・音軽いなー」


「音軽いし、なんか曲もシンプルなんだよね。金かかってないと言うか、手間もかかってないと言うか、レコーディングも時間かけてなさそう。しかし、これが名盤なのだ」


「ヴォーカルはすごくキャッチーだな。聞きやすいと思うけど・・・」


「ギターもキャッチーだよ。もうこれでもかってぐらいクサいフレーズの連発、これはメロスパーなら土中に頭突っ込んで漢泣き間違いなし、という」


「あぁ、ダサいなぁ。ダサいなぁこのストリングス。でもこのダサいのがいいなぁ」


「ダサカッコいいという、なんかこう」


「うん、なんかこう・・・いいな、これ」


「うん、いいんだよ。真面目に語ると、『VIPER』ってクッサいメロディぐらいしかウリないんだよね、一見ね。演奏はシンプルだしね。シンプル通り越して中学生が演ってんじゃないかっていう、こう、特にドラム」


「ドラムは1パターンだなぁ。フィルがなぁ、いつも一緒だなぁ」


「お前もだんだん専門用語わかってきたみたいで、先生は嬉しい」


「でもいいなぁ、これ」


「ハッキリ言うけど、このアルバムは長所より短所のほうが多い! 91年発表のくせに音は80年代だし、マトスのヴォーカルは危なっかしいし、ベースはつまんないしドラムは1パターンだし、これみよがしに使ってるストリングスもアレだし、メンバーはブサイクだし、ジャケットはもうどうしょうもないし、しかしこの言えば言うだけ出てくる欠点も、ただ『メロディ』という、『クサいメロディ』というたった一つの要素で全部をひっくり返・・・せないけど、気にならないぐらいに抑えてくれる。それだけにこのアルバムのメロディは、凡百のメロスピとは違った、魔法のメロディと言っても差し支えない! ない! ないよね?」


「あるんじゃないかな」


「ちょっとある!」


「でも、このアルバムをメロスピっていうのはちょっと違うよな。なんでかなぁ、
安い、クサい、速いの3要素を満たしてるんだけどな」


「おぉ、おぉ、お前の耳も少しは育ってきたか。そうなのだ、これはメロスピではないのだ!」


「なんで?」


「そらバッキングだよ」


「バッキング」


「バッキング。メロスピ厨とかギターキッズが全然聞こうとしない部分で、こういうヤツらは本当に死ねばいいね。大嫌いだね、ホントに。死ねばいいね」


「わかったから、そういうこと言うな」


「もた子がさっき、『クッサいメロディぐらいしかウリないんだよね、一見ね』って言った一見ってのはそこなんだよ。確かにクラシックフレーズの際立ったアルバムだけど、実はバッキングが非常に聞いてて気持ちいいのだ。うん、そう、バッキングもクサいんだよ」


「そこまでクサいのか」


「もうね、無理矢理な曲展開をバッキングが叩き伏せる、この強引な力技があってこそクラシカルフレーズがより際立ってるんじゃないかとね」


「ふーん、やっぱりそういうところが大事なんだな」


「当たり前。やっぱり音の土台のところがちゃんとしてないと、上辺でどんだけすごいことやっててもスカスカに聞こえるんだよ。だから、リズムパートが上手いバンドはかっこいいんだよ」


「『VIPER』は、ちゃんとしてるんだな」


「えぇと、うん、まぁ、気持ちだけね」


「気持ちだけかよ!」


「気持ちが大事なの! うるちゃいなぁもう」


「しかしこのアルバム、曲調がみんな一緒とは言っても捨て曲ないのはいいね」


「あぁ、捨て曲はないね」


「欠点はいろいろあるかもしれないけど、その欠点を覆す魅力のあるアルバムということで」


「うん、お勧めなのです」


「それじゃ、お疲れ様」


「いや、まだ終わんねぇよ!」


「終わらないの?」


「これからが本番だよ! 次だよ次、次のアルバムが大事なんだよ!」


「次って、この骸骨が自転車乗ってるやつ?」


「『evolution』ね。ジャケがちょっとだけMEGADETHっぽいよね」


「だってこれ、マトスが抜けてクラシックやめちゃったアルバムだろ?」


「バカーッ! クラシックやめたからいいんじゃんかよ! 『VIPER』にマトスはいらないんだよ!」


「えー」


「えーじゃねぇよ、この不感症女! だれだ、モニターの前で『evolutionで曲調変わったからVIPER聞くのやめました』ってツラしてるバカタレは! おおおお前反省しろ!」


「あたしは不感症じゃない・・・多分」


「うるせぇこのパッパラパー! お前の母ちゃん冷え性! やーい、冷え性!」


「意味わかんないこと言うな」


「『evolution』に比べたら、『theatre』なんて前座だよ前座。『VIPER』ったら『theatre』ばっかり評価されてて、なんかすっごい悔しい。『evolution』のほうが完成度は何百倍も、ごめんちょっと言い過ぎた、1.2倍もいいのに」


「褒めるならちゃんと褒めようよ!」


「大体、マトスを過大評価しすぎだよな。あいつ大したことないよ、鉛筆貧乏削りだったし」


「そういうこと言うなよ!」


「給食のとき、一人だけ先生に『いっぱい食べて帰れよ』って言われてて」


「言われてないよ!」


「『残ったパンはマトスくんにあげましょう』とかさ」


「そんな事実はないって!」


「あだ名は『貧乏』だったし」


「やめろよ! マトスはブラジル人だから、小学校はお前と一緒じゃないよ!」


「でもあいつ、ヤクルト好きなんだぜ」


「いいじゃないか、なに飲んでても」


「日本のカップラーメンも好きらしいよ。『マルチャン』って言ってたもん」


「日本のインスタントラーメンとかは、世界でも評価高いらしいね」


「マルチャンって、お前はたまちゃんかよ!」


「どういう突っ込みだよ! ちびまる子ちゃん関係ないよ!」


「マトス、藤木の横に立ってたよ」


「立ってないよ!」


「マトスと藤木と永沢くんで作ったのがANGRAだろ」


「違うよ! いい加減にしろ!」


「『evolution』ね。前作のクラシカルなパワーメタルから一転して、ヘヴィなメタルロックやるようになったんだけど、これがまたいいんだよ」


「ふーん、そうなの?」


「ふーんて言ってるよこいつ。『theatre』のときにもバッキングがかっこ良かったんだけど、『evolution』になってそれがよりフューチャーされるようになったね。あと、ベースとドラムが改心していいプレイするようになった」


「改心してって・・・別に前作で悪いことしてたわけじゃないだろ」


「仲間になりたそうな目でこっちを見てて・・・」


「うるさいよ! 仲間もなにも、元からのメンバーだろ!」


「まぁ、前作よりもアグレッシヴなプレイするようになったのさ。リズム隊がそうなったら、そらギターもヘヴィになるよ」


「でも、マトスが抜けちゃってだれが歌ってるんだ?」


「ベースの人が歌ってるよ」


「あー、わかった! お前ってほんっと、ベースが歌ってるバンドを贔屓するよな。モーターヘッドとかレイジとか、これもそうだろ!」


「別に贔屓なんかしてねぇよ。いいもんをいいって言ってるだけだぁ」


「そうかなぁー」


「『evolution』のヴォーカル、そんなに悪くないよ。好きな声だし、ヴォーカルラインもキャッチーだしね。マトスの危なっかしいハイトーンよりいいかなぁ。上手くはないんだろうけど、味があっていいよ」


「味ねぇ」


「コーラスもクサいしね。でも、クサいけどかっこいいんだぁ。everybody,everybody♪とかさ」


「ヴォーカルがキャッチーだと、聞きやすくていいね」


「でもやっぱり、バッキングが聞いてて気持ちいいなぁ。ギターソロのうしろで、ギャギャギャギャって、8ビートなの」


「へぇ、16ビートじゃないんだ」


「16ビートもあるけど、いや、ほら、ドラムが・・・2バスとか、その・・・踏めないから・・・」


「うぉーい! プロだろ! お前らプロなんだろ!」


「っつか・・・こいつら、ほら・・・ドラムだけじゃなくって、全員・・・ヘタだから、演奏・・・ド下手だから・・・」


「メタルやってて、2バス踏めないドラムってすごいな」


「まぁまぁ、テクじゃないよロックは!」


「うん、そうだな。テクニックじゃないよな、ロックっていうのは」


「そうは言っても、LIVE盤とか演奏ヒドすぎだけどね」


「どっちだよお前! フォローするならちゃんとしろよ!」


「だから、演奏もヘタッピだし取り柄は相変わらずのクサメロディで『theatre』と比べてヒドい評価の『evolution』だけど、『自分たちの考えてるロックンロールをやりたい!』ってエネルギーはちゃんと伝わるから、そういう気持ちの部分をちゃんと買ってあげて評価したいな、と」


「ほら、贔屓してるじゃん」


「贔屓かなぁ。でも、かっこいいよ『evolution』。『theatre』が過大評価されてて、
『evolution』は過小評価されてると思うよ。だからクラシカルな部分しか聞かないヤツらはダメなんだよ」


「まぁ、クラシックやらなくなった途端に手のひら返したって感じはあるよな」


「音楽の一部分だけ聴いて、いいとか悪いとか名盤とか駄作とか言ってんだから、ホント笑わせんなって感じ。向いてないんだよ結局」


「まぁまぁ、まぁまぁ。ところで、『VIPER』っていまなにやってるの?」


「エロゲーになったよ」


「うるさいよ!」


「そっちでも大評判で。マトスも出てるし。眼鏡っ子になって」


「出てないし眼鏡もかけてないよ! いい加減にしろ!」


「元VIPERだけに、蛇のようにねちっこいカラミをフルアニメーションで」


「ヘボいオチつけるな! もういいよ!」


「はいはい」