「ぼえー」


「あれ? 『metal』じゃないの?」


「そうだよーぼえー」


「じゃ、なんで莱穂が来てるんだ?」


「にひひひ、それは内緒なのねん。うりゃうりゃ」


「こ、こら、スカートひっぱるな」


「よもやその年で生娘でもあるまいに、いらぬ抵抗するでない」


「やーめーろー。なんだ、また道に落ちてるものでも食べたのか?」


「おりゃおりゃ、パンツ見せろ。たまには読者サービスの一つぐらいしないといつまでたっても『半角二次元板』にデビューできないだろ。何気に待ち遠しいんだこっちは」


「ワケわからんこと言うな! いいかげんにしろ!(びし)」


「あ、あぁー」


「お?」


「(ごそごそ)」


「おい・・・・・」


「ぎ、ぎー」


「おい。グーパンチしてやるから、そのかぶりもの脱げ」


「ぎーぎー、真乃緒ちゃんは何を言ってるのかわからないのねん、マヂで。2回死んで出直して来いって感じだボエボエー」


「脱げー!」


「いやーやめてー! 顔はやめてー! レイプされるー! レイプ、レイプマーン! スクリュードライバー!」


「ワケわからんこと言いやがって、なんだこりゃ、マスク?」


「はうぅ、顔を見られたからには月へ帰らねばなりません。あぁ、もうお迎えの怪獣モチロンが・・・」


「莱穂のマスクか。よくできてるな」


「でしょ? けっこうねぇ、大変だったんだよ作るの」


「なんかこれ、気持ち悪い感触だなぁ、ヌルヌルしてて。何で作ったんだ?」


「莱穂」


「いや、モデルが莱穂なのはわかってるんだよ。素材が何かって聞いてるんだ」


「莱穂。それ、莱穂のツラの皮」


「なぬ・・・・・・?」


「14年も使ったんだ・・・・・・とっかえてやんな」


「じゃ、莱穂は・・・どうなったんだ・・・?」


「うん、『莱穂を・・・・侮辱する気かぁっ!』って蹴り出して来たけど、顔面蹴っぽってやったら『勝負あり』だって」


「うぅむ、大擂台賽トーナメント・・・まだまだ先が見えないな」


「まぁ、マスクと言えばすりっぺ。今日はリクエストにお答えしてすりっぺの紹介を」


「すりっぺってなんだ?」


「『SLIPKNOT』ってバンド。ジャンルはなに、これ、アレか? ニューメタルっつ
ーの? よくわかんねぇけどそんな感じ」


「すりっぷのっとねぇ・・・どういう意味?」


「『奇妙な結び目』。奇術、えーと、手品用語だよ」


「ほー」


「まぁだからどうこうってワケじゃないんだけどね」


「で、どういう音?」


「ふぁーっく、ふぁーっくって」


「はぁ」


「そんな感じかな、大体」


「終わりかよ!」


「合ってるんだよ、それで。ふぁーっく、ふぁーっく、まざーふぁっかー、ふぁーっく」


「なんか下品なバンドだなぁ」


「ロック自体あまりお上品な音楽と違うし、別にいいんでない?」


「あんまり下品なバンドは好きじゃないな、おねいちゃんは・・・・で、お前はそのすりっぺのどこが好きなんだ」


「ドラム」


「それだけ?」


「あぁいう手数の多いドラミングはいいね」


「でも、それだけってことはないだろう」


「ちょっと厳しいこと言っていい?」


「多少は言葉を選べよ、リクエストしてくれた人の顔も立てなきゃならんし」


「あいよ。あのねぇ、音楽自体はいいよ。1stアルバムはかっこいいと思うし、『出してる音が大事なのであって、ツラとかはどうでもいいんだ』って主張もすごーく良いと思う。ただねぇ、その、アレだよ・・・・その主張がどうにも裏目ってないかにゃーと」


「裏目?」


「なんつーかね、『ツラはどうでもいいんだ』って言ってマスクかぶってるけど、そのマスクがもう『ビジュアル』でしょ。人のスタイルだからそこにケチつけるつもりはないけど、本当にツラが、外見がどうでもいいと思ってるならマスク脱ぐべきだよね。まさか9人が9人とも女にキャーキャー言われるほど美青年ってほどでもないだろうしさ」


「まぁ、それは一つの意見だな」


「しかも全員が作業着着ててさ、そこまで徹底したらそれはもう『ビジュアル』だと思うのねん。それにね、音なんだけど」


「音にも不満があるのか」


「いや、不満じゃないよ。ちょっと聞いてみてよ、すりっぺ」


「どれどれ・・・・・・・。うわぁ、なんだかすごくうるさいなぁ。ヴォーカル、叫んでてなに言ってるかわかんないぞ」


「うん、そう。パッと聞くとラウドだよね。でもね、何度か聞くとわかるんだけど、コーラスとかはすごくキャッチーなんだよ。音楽スタイルがラウドだから気がつきにくいんだけど」


「キャッチーってことは・・・」


「うん、初心者さん向けなの。で、初心者さん向けってことは、若い子のファン、それも女、が多いのね」


「それが気に入らないって?」


「いーや? キャッチーなのはいいことだし、初心者さん向けなのもいいことだよ。それはマイナスにはならないの。ただ、わかりやすいサウンドは勘違いファンを産みやすいの」


「勘違いファンねぇ・・・別にいいじゃんか、そんなの」


「よくないね。メロスピ聞いただけでメタルをわかった気になっちゃいけないのと同じように、すりっぺ聞いただけでヘヴィロックわかった気になっちゃダメ。洋楽初心者さんにありがちなんだけど、洋楽を聞いてること自体はぜんぜんかっこよくもないし偉くもない! 今までとあまりにも違う音楽聞くようになったからって、そこんとこ勘違いしないようにね」


「そんな勘違いって大げさな・・・そんな人いないよ」


「いるよ。真乃緒ちゃんの知らないところに、ウジャウジャウジャウジャいるよ。少なくとも、すりっぺ聞いてそうなった人間をもた子は3人知ってる。そのうち2人は女。異様な風貌、ラウドなサウンド、病的に暗いオーラ、そこに何がしかの危険臭を感じて惹かれるのも分かるけど、ファンならもっと出してる音を聞け」


「そりゃ聞いてるだろ、ファンなら」


「どうだかね」


「大体アレだぞ、お前だってそんなに偉そうなこと言えるほど音楽に詳しくないだろ」


「まぁね、それは超認める。でも、すりっぺのファンにはすりっぺで止まらないで欲しいのねん。ミーハーはいつだってバンドにこだわる。それダメ。すりっぺは『音が大事なんだ』ってメッセージを出してるんだし、せっかくファンをやるならそのメッセージを大事にしたほうがいいんじゃないかなーって。彼等のサウンドのルーツを追ったり、色んなバンドを聞いたりして、それでもう一度すりっぺを聞けば、彼等の言う『大事』な音に気づけるんじゃないかなー」


「うぅむ、なるほどな」


「でもアレだよ、ここでこんな支離滅裂な意見を聞いたからって本気にしちゃいかんよ。『こう思ってる人もいるんだなー』ぐらいでいいの。いちいち人の言うこと真に受けるのが一番いけないよ」


「安心しろ、だれも聞いてないから」


「それなら安心だね、好き勝手言える。でもまぁアレだよ、色々言ったけど、もた子自身はすりっぺ好きだよ。アイオワのド田舎でくすぶり続けた田舎モンの、狂気にも近いエネルギーがなんともロックじゃないの」


「うーん、よくわからんがな」


「ロックは劣等感まみれの人間がやるのがいいんだよ。そういう点では、すりっぺは異色でもなんでもない、正道なバンドだと思うッス」


「語尾が気になったけど、そういうもんなんだということはわかった」


「きっとツラにもファッションセンスにも自信のない人間の集まりなんだよ、すりっぺは。それがマスクと作業着に現れてると思うよ」


「そ、それは言いすぎだろ、知らないのに」


「言いすぎ? 褒めすぎと言っていただきたいね。ロックの世界は劣等感が武器になるんだよ。その劣等感を、どういう音に変換させるかが大事なんでしょ」


「んー、そうか」


「そういうこともチラッと考えながら聞くと、あのグニャグニャの暗黒精神世界な詩がもっと楽しめると思うけど」


「んー、今日はマジメだなぁ」


「こんなときぐらいはマジメにならないと・・・・莱穂も死んじゃったし」


「死んじゃったのかよ!」


「だから、この遺品のマスクをかぶって、もた子はすりっぺの10人目のメンバーになるのだ! 担当はSEキボン!」


「なれるか!」


「うぉー、待ってろ莱穂! もた子は、もた子は立派なシステムエンジニアになるぞー!」


「そのSEかよ!」


「そういうわけで、就職活動してくる」


「かぶるなよ、マスク」


「ちょっと待ったぁ!」


「おぉ? 本物だ、本物が出てきたぞ」


「もた子ちゃん、こないだの人形と言い今度のマスクと言い、悪ふざけもいいかげんにしなさい!」


「テメー、年上に向かっていい加減にしろとはいい度胸だ! 今日という今日こそ夏らしくサッパリした感じに仕上げてやる!」


「なんだなんだ、紛らわしいなぁ」


「真乃緒ちゃん、フォローしてぇ! クロス!」


「あたしかよ! えーと、ボンバー!」


「あ、あぁー! もた子のマスクがー!」


「完璧超人の強さ、思い知ったかー!」


「うぅぅ・・・・真乃緒ちゃん・・・・だれか、もた子の顔を見て笑ってない・・・?」


「みんなが笑ってるよ」


「トホホ・・・サザエさんかよ・・・(がく)」